父が死んだ “一緒に暮らす”という選択
“一緒に暮らす”という選択
第1話で「何事もなかった」と書いたが、実際には少し違う。
搬送してくれた救急士さんからこんなことを言われた。
救急士さん
搬送するためにお父さんのお部屋に入りましたが、今の状態だと一人暮らしは危険だと思います。
季節は冬。
山と積まれた荷物(父は片付けられない、捨てられない人だった)の、ほんの僅かなスペースに、万年床。そしてその布団のすぐ脇に、電気ストーブがついていたそうだ。まさかエアコンを使わずに電気ストーブを使っていたとは。
これじゃあ、いつ火事を起こしてもおかしくない。
それに父の暮らすアパートには風呂がない。トイレも和式だ。
いくら食事を用意しても、洋式トイレや風呂までは用意できない。
階段の登り降りすら難しくなっている今の状態では、ここでは生活できないことは明白だった。
母と同居の姉、ひとり暮らしの自分
姉はいわゆるシングルマザーで、母と同居をしている。
かたや私は子供もいない独身。
父がひとり暮らしをできなくなった今、どう考えても自分が同居する以外の選択肢はない。
ただ、その時私が住んでいたのは6畳ワンルーム(風呂トイレつき)。
そこに父を引き取ることは不可能だ。
引っ越しをしなくちゃいけないな…でも父と同居したとして、それで解決するのか?
私が仕事をしている間、父は結局一人になる。
繁忙期には22時、23時の帰宅になることもしょっちゅうだ。その間、父の食事はどうする?もし何かあったら??
…でも、このままひとり暮らしをさせるのも無理だ…
「でも、でも…」ばかりが頭をめぐって、何の解決策も出ない。
何はともあれ、心配しているであろう姉に報告をしなければ、と電話をかけた。
姉貴無双
姉との会話は確かこんな感じだった。
私
姉ちゃん、父ちゃんもう階段の昇り降りもしんどい状態だよ。多分ひとり暮らしは無理だ。って言ってもすぐにどうこうできないし、まずは宅配弁当とか調べてみるよ。とりあえず、レトルトのおかゆとかは1週間分くらい買ったけど、週末にまた持って行こうと思う
姉
そうか、わかった。心配だから明日仕事休んで父ちゃんのところ行くわ。
そして翌日、姉から電話。
姉
今日、役所からの保健センターに行って相談してきたよ。状況が状況だからって、すぐに動いてくれて、1日2回、お弁当の宅配を手配してくれた。明日から宅配してくれるって。
私
そんな早く!?
姉
で、その状態だと介護認定されると思うから、まず認定の申請するために医師の診断が必要になるから、近くの病院にいって診断してもらった。
私
え、もう行ったの!?
姉
行ったよ。で、今週の土曜日に父ちゃんちに介護福祉士さんが面談に来るけど、あんたも来れる?
私
う、うん、行く。(頭が追いつかないィ!)
今思い返しても、この時の姉はハンパなかった。
姉がいてくれて良かった、本当にそう思った。
“お役所”は頼れるところだった!
そもそも、自分は『役所に相談する』という事自体が、まったく頭の中になかった。
今まで役所に行くときは
・税金払う
・引っ越しとかで届け出を出す
・住民票とかの証明書発行する
くらいしか用事なかったし、困っていたところで、どうせ理屈つけて門前払いされるんだろと勝手に思っていたから。
自分で何も動かず、勝手に悪印象を持ってたことが本当に恥ずかしかった。
もちろん、相談しても自分の希望が通らないときだってあるだろう。
それどころか、本来受けられるべきサービスが受けられなかった、なんてニュースも時折目にする。
でも、それでも。
少なくとも私や姉が相談した役所の方たちは、みんな親身になって話を聞いてくれた。
どうしていいか分からない私達に手を差し伸べてくれたのは、間違いなく“お役所”をはじめとした行政の方たちだった。
今でも、本当に感謝している。
つづく